トヨタ自動車(豊田労基署長)事件 2021年(令和3年)9月16日判決

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 名古屋高等裁判所は2021年(令和3年)9月16日、トヨタ自動車の従業員が自殺下事件について、労災と認めなかった名古屋地方裁判所の判決と取消し、豊田労基署長の労災と認めなかった判断を取り消す判断をした。

 労災だと訴えていた遺族の訴えを認めて逆転勝訴をさせた。

 

 私は、弁護団ではなく、この事件については詳細は把握していないが、諦めないで、裁判を戦ったご遺族の方、そして、弁護団の水野幹男弁護士、梅村浩司弁護士、加計奈美弁護士に心から敬意を表したい。

  

 この労働者の自殺は2010年(平成22年)のことであるから11年が経過して、ようやく労災であると認められたのであり、ご遺族の苦労は計り知れない。

 

 判決では業務に関して次のような心理的負荷が指摘されている。

 

 「達成は容易ではないものの、客観的にみて努力すれば達成可能であるノルマが課され、この達成に向けた業務を行った。」と評価できることが「中」

 

 「弱」であるが、他の業務と並行して上記業務を進行させる責任を負っていたという点において相応の心理的負荷があったと考えられる出来事がある。

 

 はじめての海外業務を担当することについて「仕事の内容の大きな変化を生じさせる出来事があった」に該当する精神的負荷があった。(心理的負荷としては「中」相当)

 

 そして、パワーハラスメントについては次のように認定されている。

 

 グループ長から、他の従業員の面前で、大きな声で叱責されたり、室長からも、同じフロアの多くの従業員に聞こえるほど大きな声で叱りつけられたりするようなことは,軽視できない。同様な叱責を受けていた○○をして、後日、本件会社の退職を決意させる有力な理由となるほどのものである。

 

 このような事実を否定したグループ長、室長の証言は、他の証言等を理由に信用できないと退けられている。

 

 そして、このパワハラを、2020年に改定された精神障害の労災の認定基準に当てはめをして

 

 「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責」であり、その「態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃」と評価されるのが相当である。

 

  と判示した。

 

 さらに、その叱責は少なくともグループ長から週1回程度、室長から2週間に1回程度だったと認定している。

 

 心理的負荷については、次のように判断している。

 

 個々的にみれば「中」には相当する。

 それらの精神的攻撃は、グループ長のみならず、室長からも加えられている。

 そして、これらの行為は、平成20年末頃から本件労働者が発病に至るまで(発病は平成21年10月頃とされている)反復、継続されている。

 

 判決は、これらの事実を踏まえ、

 

 一体のものとして評価し、継続する状況は心理的負荷が高まるものとして評価するならば、上司からの一連の言動についての心理的負荷は、「強」に相当する。

 

 と判断している。

   

 判決は、

 

 上記の出来事の数及び各出来事の内容等を総合的に考慮すると、平均的労働者を基準として、社会通念上客観的にみて、精神障害を発病させる程度に強度の精神的負荷を受けたと認められ、本件労働者の業務と本件発病(本件自殺)との間に相当因果関係があると認めるのが相当である。

 

 と判示した。

 

 この事案、リーマンショックの後で、時間外労働は厳しく制限しており、当該労働者もほとんど時間外労働は行っていない。

 しかし、業務の変化の大きさや,パワーハラスメントの実態を認めて、業務上の疾病と認めている。

  

  1審判決は、パワーハラスメントについて、

 「本件労働者に対する業務指導の範囲を逸脱しており,その中に本件労働者の人格や人間性を否定するような言動が含まれ,あるいはこれが執拗に行われたものとは認められない。」

  として、その心理的負荷が「強」とは認めなかった。

 

 改正前の認定基準では、「人格や人間性を否定するような言動が含まれ」ていなければ、心理的負荷が「強」にはならないかのようにされていた。

 

 判決からは、当のパワハラをしていたという上司の証言の信用性は否定されているが、パワハラをした当人が、そのことを全く認めないというケースは、私にも経験がある。これを立証するのは、なかなか困難である。現に1審判決は控えめな評価で労災と認めなかった。

 

 高裁の事実認定をみても、原告側でいろいろな角度から立証の努力をしたのだろうと推測される。当事者と弁護団の相当の努力が会ったのだと考えられる。

 

 これを記載している9月19日は、上告、上告受理申立の期間内ではあるが、事実認定が大きな争点であるから、上告、上告受理申立理由はなく、被告国も上告、上告受理申立はしないのではないかと予想される。

 

 損害賠償請求訴訟が別に1審に係属している。被告トヨタ自動車株式会社は、労災が認定された事案とは異なり、本件では、争う姿勢を見せているようであるが、高裁判決がパワハラ等を認めて労災であると判断したのであるから、これを尊重し、早期に全面的な解決に向けて態度を変更するべきである。