「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」がとりまとめた「論点の整理」

 厚生労働省は、「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」(座長 山川隆一 東京大学大学院法学政治学研究科教授)がとりまとめた「賃金等請求権の消滅時効の在り方について(論点の整理)」を公表しました。

 

「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」がとりまとめた「論点の整理」を公表します 

    民法については、第 193 回国会において民法の一部を改正する法律(平成 29 年 法律第 44 号。以下「改正民法」という。)が成立しました。2020年4月から施行されます。
  消滅時効関連規定について も大幅な改正が行われました。
  一般債権に係る消滅時効について
 ①債権者が権利を行使する ことができることを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないとき、又は
   ②権利を行使することができる時(客観的起算点)から 10 年間行使しないときに 時効によって消滅する、
 と整理されました。

 ところで、労基法に規定されている賃金等請求権については、労基法第 115 条の規定 により2年間(退職手当については5年間)行わない場合は時効によって消 滅するとされています。
 労基法の賃金等請求権の消滅時効規定は、民法の特別法として位置づけられるています。そこで民法改正をしたと、労基法については、改正をしなくてもいいのか、が問題になりました。


 考え方として、
 あくまで民法と労基法は別個のも のとして位置づけた上で労基法上の消滅時効関連規定について民法とは異 ならせることの合理性を議論していけばよい。仮に特別の事情に鑑みて労 基法の賃金等請求権の消滅時効期間を民法よりも短くすることに合理性があるのであれば、短くすることもありえるという考え方もあるのではない か、という意見があります。
 一方で、民法よりも短い消滅時効期間を、労働者保護を旨とする労基法に設定する のは問題であるとの考え方もあるのではないか、という意見もあります。
 
 この問題についての意見の状況や私の意見は2019年5月4日のブログでのべたとおりです。


 上記検討会は、これについて次のように結論づけています。
 「…現行の労基法上の賃金請求権の消滅時効期間を将来に わたり2年のまま維持する合理性は乏しく、労働者の権利を拡充する方向 で一定の見直しが必要ではないかと考えられる。」
 よって、2年が延長されることはほぼ確実と考えられます。

 

 しかし何年にするのかについては、「この検討会の議論の中では、例えば、改正民法の契約上の債権と同様に、 賃金請求権の消滅時効期間を5年(※)にしてはどうかとの意見も見られたが、」と「が、…」とあるように結論は出ていません。
 「この検討会でヒアリングを行った際の労使の意見に隔たりが大きい 現状も踏まえ、また、消滅時効規定が労使関係における早期の法的安定性の役割を果たしていることや、大量かつ定期的に発生するといった賃金債 権の特殊性に加え、労働時間管理の実態やその在り方、仮に消滅時効期間 を見直す場合の企業における影響やコストについても留意し、具体的な消滅時効期間については速やかに労働政策審議会で検討し、労使の議論を踏 まえて一定の結論を出すべきである。」
 私には、使用者が反対しているから簡単にできないので、少し譲ってはどうか?と読めます。しかし、民法で様々な短期時効があり、これを廃止した民法改正の趣旨からすれば、例外をもうけることは理論的にはありえないように思えます。
 
 いずれにしても、権利拡大の方向性は明らかになったのですから早期の改正が望まれます。

 なお、経過措置について、
  ① 民法改正の経過措置と同様に、労働契約の締結日を基準に考える方法
  ② 賃金等請求権の特殊性等も踏まえ、賃金等の債権の発生日を基準に考える 方法
 いずれにするかという論点がありますが、これについては、方向性は示されていません。
 
 2020年4月の民法改正施行が近くなってきました。早期の改正がなされることを期待します。