焼身自殺の闇と真相

 毎日放送の奥田雅治さんが本を書きました。

 

 「焼身自殺の闇と真相 市営バス運転手の公務災害認定の顛末」

 

 奥田さんは、現在は毎日放送の報道局次長兼番組部長。長年プロデューサーとしてドキュメンタリー制作に関わってきました。

 

 私も弁護団の一員である名古屋市バス事件を長年取材し、ドキュメンタリーをつくりました。「映像’16 追い詰められた”真実”~息子の焼身自殺と両親の9年~」でギャラクシー賞などを受賞しています。

 

 そのドキュメンタリーの内容を1冊の本にまとめられました。

 

 名古屋市バス事件は、2007年にご本人が自死されてから2016年に公務災害の認定訴訟が高裁で公務災害との判断が出て確定するまで9年間かかりました。

 

 私は、2013年に裁判をおこしてからの関わりですので、高裁判決までは、4年間の関わりです。

 しかし、奥田さんは、この事件がおきてまもなくから、9年間ずっと取材を続けてきました。公務災害申請、弁護団会議、法廷、この事件の初めから判決まですべてを知っています。ときには、自ら相手方当事者に取材し、真相を聞き出しています。審査会を担当した弁護士にも取材をしています。

 

 その顛末が本になっているのです。

 

 弁護士が、事件の内容を書いた本はあります。

 私は、藤本正弁護士(故人)の電通事件の経験を書いた

 

  ドキュメント「自殺過労死」裁判―24歳夏 アドマンの訣別 

 

 を何度も読みました。

 本当に引き込まれる裁判の記録です。 

  

 また、記者の方が、判決の後、事件を遡って取材し本を書かれることもあります。

 私の担当した事件も書いていただいたルポライターの斉藤貴男さんの

 

   「強いられる死 ---自殺者三万人超の実相」

 

 は裁判が終わった後に取材をうけて書かれた本でした。

 ほかにも過労死のことを取り上げた本はたくさんあります。

 

 けれども、この本は、これらと違います。

 

 事件が起きた当初から、高等裁判所で判決が出るまでのことを、すべて同時進行で取材をし、その内容を本にしているのです。圧倒的な取材の量を元にかかれているのです。

 

 そして、弁護士や、当事者が書くのではなく、ドキュメンタリー制作のプロが、感じたことを書いているので、第三者の視点で伝えられています。そのため、読み手に分かりやすく伝えています。

 

 遺族の山田さんのご夫妻が、この事件のときどきに、取材に答えて、あるいは支援者に向かって語っていた言葉。大切な言葉をきりとって、紹介しています。

 

 尊敬すべき大先輩の水野幹男弁護士の執念の弁護活動がリアルに描かれているところが。また、すばらしいです。

 

 私自身のつたない尋問の様子も収録されています。弁護団会議での思いつきで話していた内容まで収録されていて、気恥ずかしい限りです。

 

 こんな本は、これまでなかったし、これからも出せないのではないかと思います。是非、多くの人に読んでほしいと思います。