ストレスは足し算で計算するべきでは

認定基準

 精神障害を発症したときに、労災か否かについては、厚生労働省の発出した(心理的負荷による精神障害の認定基準(基発1226第 1 号       平成23年12月26日) )によることになっています。(以下、認定基準、といいます。)

 

 この認定基準では、「 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認 められること。 」が要件になっています。

 

 そして、強い心理的負荷がみとめられるかどうかは、認定基準の別表 1「業務による心理的負荷評価表」(以下「別表1」という。)を指標として「強」、 「中」、「弱」の三段階に区分し、そのうちの「強」にあたる心理的負荷があるかどうかを検討することになります。

 

 ここで「強」にあたるような心理的負荷があれば業務起因性が認められます。

 

 また、「中」にあたるような心理的負荷が複数あった場合には、「強」と認められる場合があります。

 しかし、「中」と「弱」の心理的負荷がある場合には、「強」とはならないとされています。

 

 

心理的負荷による精神障害の認定基準
厚生労働省のパンフレットより

ホームズらの研究 夏目の研究

   夏目誠教授の論文によるとHolmesら(Holmes,T.H.,Rahe,R,H,: THE SOCIAL READJUSTMENT RATING SCALE Journal of Psychosomatic Research. Vol. 11, pp. 213 to 218. Pergamon Press. 1967. )は体験したストレス点数の合計点が高くなれば、病気に陥る可能性が高くなると報告したとのことです(出来事のストレス評価)精神経誌(2008)110巻3号)。

 

 夏目誠教授の論文には以下のような記載があります。

「すなわち単一のストレスでなく、一年間に体験したストレスの総量が高ければ、病気の発生に結びつくという考え方だ。そこで我々は、ストレス度とストレス関連疾患との関連を検討した。すなわち平成6年から大阪府こころの健康総合内に解説されたストレスドックに受験した1,426名を対象に、ドック受験前の1年間における対象者が体験したストレッサーのストレス点数の合計点数を求め、健常者群と、ストレス関連疾患者群(略)の主として2群間の差異を分析した。

 その結果は図1に示したように、年間の体験した合計点数は健常者群の219点に対して、ストレス関連疾患者群(ノイローゼや心身症、軽症うつ病等)の受診者のそれは335点であり、健常者に比べて116点も高得点であった。特に職場との関連性が高い適応障害(職場不適応症)の受診者は391点で最も高得点であった。実に172点も高い。このことから、ストレス関連疾患の発生にストレスが関与しているのがわかる。」

 

 

ホームズらの研究 夏目らの研究からすれば、

 上記ホームズらや、夏目の研究の結果からすれば、ストレスは、そのすべての合計によって高いと判断することになるようです。

  そうであれば、今の認定基準には疑問があります。

 

  中 +  弱  がかならず中にしかならないのか。

 

  弱 +  弱  がかならず弱にしかならないのか。

 

 いずれも疑問が生じます。合計点数が高いとストレス関連疾患の発症がたかまるのであれば、弱が多くあった場合にも弱が業務上の心理的負荷であれば、弱の合計が強になるばあいもありえることになります。そうだとすると、弱しかなくてもたくさんストレス要因があれば、発症について業務起因性が認められるのことは考えていいのではないでしょうか。

 

 中と弱でも、弱が複数あったり、中が強に近い状態であれば、強とみとめることはできるのではないでしょうか。。

 

 また、上記ホームズらは、過去1年間におけるストレッサーのストレス点数の合計点を考慮しています。

 認定基準は発症前6か月に限定指定しています。この点も1年間の出来事を考慮するべきではないかといえます。

  

 さらに検討してみたいテーマです。