電通だけではない

 年末も電通の問題が連日報道されている。28日の報道によれば、「厚生労働省は28日、高橋さんに労使協定(三六協定)で定めた上限を超える違法な残業をさせたとして、労働基準法違反の疑いで、法人としての電通と当時の上司に当たる幹部1人を書類送検した。」(中日新聞)とある。「家宅捜索から1カ月半と異例のスピードになる。」とも報道されている。

 

 29日の報道によれば,電通の「石井直社長(65)は28日、東京都内で記者会見し来月辞任すると表明した。高橋さんの自殺に端を発した労働基準法違反事件の責任を取る。」と報道されている。

 

 さらに「電通は二十八日夜の会見で、高橋さんの過労自殺に関する外部専門家による調査結果を公表。「長時間労働に加え、仕事の責任感や職場での人間関係の強いストレスが自殺の原因となった可能性は否定できない」とした。上司による高橋さんへのパワハラも認め、「十分なサポートが足りなかったと深く反省している」との認識を示した。」とも報道されている(中日新聞)。

 

 ただ、マイニュースジャパンの記事によると「事件のことは発生直後から知り、経緯を把握してきましたが、労災認定が決まった今年9月の前まで、会社は、個人の問題で片づけようと動いていたように見受けられます。独身寮で起きた事件なので、自殺のあと、会社側が同寮社員への聞き取り等を通じて、別れ話の件を把握したようです。だからこそ会社は、甘くみていました」(Aさん)との指摘もある。

 

 いずれも報道によるものである。ただ、報道する以上、誤りがあれば電通から名誉毀損などの損害賠償請求もある。取材に基づいて責任をもって掲載しているのだと考えられるから、それなりの根拠があるのだと考えられる。

 

 実際に、労災を担当した事件で、労働基準監督署長が,過労死、過労自殺について業務上だと認定しても、企業側が労災であることを争い、訴訟になることがある。

 

 たしかに、実際に労災と認定されながら、損害賠償請求が認められなかった例もある。

 

 しかし、会社には安全配慮義務違反があるのに、それを認めようとせずに争われ、最終的には損害賠償請求が認められることもある。その中には、会社が、内部の事情を全て明らかにしないで、責任逃れをしようとしているのではないかという態度を感じることもある。

 

 そもそも、遺族の中には、周囲の親族に反対されたり、地域での生活、子どもさんなどへの影響を考えて、労災申請をためらゥ人もいる。労災認定がなされて、損害賠償請求をしても、そのことを公表することに躊躇する方も多い。

 

 今回の電通の対応も、高橋さんが、勇気を持ってご自身となくなった高橋まつりさんのことを公表したことが、マスコミを動かし、大きく取り上げられ、国を動かし、そして電通自体を動かしたのではないかと考えられる。

 

 もし、このような取り上げ方がなされなかったら、電通は、遺族に対する責任を真摯に調査していたのだろうか、疑ってしまう。

 

 11月に岐阜で行われた厚生労働省主催の過労死等防止対策推進シンポジウムで、過労死弁護団全国連絡会議の代表幹事の松丸正弁護士は、企業のトップの一人一人の責任が追及されなければ、なぜ過労死が起こったかが検証されず、過労死がなくならない,と話した。

 

 電通だけではなく、全ての企業が、従業員が労災と認定されたときには、真摯にその原因を調査し、責任があることがわかったときには真摯に遺族に責任を認めてしかるべき対応を取って欲しい。それだけでなく、それにいたった企業のトップは自身の責任を問われることを自覚して欲しい。

 

 企業が、電通のことをきっかけにして、過労死を出したときには、ご遺族に対する民事責任だけでなく、労基法違反の刑事責任も問われる可能性があることがあること、そのことは、社会的にも大きな非難を受ける可能性があることが明らかになった。

 

 企業は、真剣に長時間労働の削減、パワハラなどのハラスメントの防止に取り組む必要性を感じて欲しい。

 電通報道を見てあらためて感じた次第である。