日曜日、「嵐」の松本潤さんが主演するドラマが始まりました。
99.9-刑事専門弁護士ー
楽しく拝見しました。
松本潤さん、榮倉奈々さん、香川照之さん、岸部一徳さんなど名だたる俳優さんが、弁護士を演じています。ドラマの視聴率も上々のようです。このドラマをみて、弁護士、特に刑事弁護人にいいイメージをもってもらえたら嬉しいです。
松本潤さんの演じる深山大翔弁護士。かっこいいですね。
弁護士の私から見て良かったシーンは、深山弁護士が、事件を受けたときに、すぐに席をたちあがって、接見に行くところです。刑事弁護人すべきことは、まずは接見です。そして、被疑者のお話をしっかり聞くことです。きっと実際の弁護士にしっかり取材しているなと感じさせる場面でした。
でも深山弁護士(松本潤さん)と佐田弁護士(香川照之さん)の次のやり取りは疑問が残りました。
佐田弁護士 「…一旦起訴されたら、裁判というのはな、事実よりも検察官の画いたストーリー通りに進む。…(略)…依頼人の利益を考えろ。」
深山弁護士 「佐田先生は依頼人の利益を考えるのかも知れませんが、僕にとっては、依頼人の利益よりも事実を明らかにすることが大事なんです。事実を知ることが弁護です。」
佐田弁護士 「依頼人の利益を考えるのが弁護だ。有罪か無罪かは関係ない。」
深山弁護士 「僕はなにが事実かを知りたいんです。有罪か無罪かは関係ない。・・・。」
日本弁護士連合会が定めている弁護士職務基本規程の21条は、「弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益を実現するように 努める。」と定められています。深山弁護士の「依頼人の利益よりも事実を明らかにすることが大事なんです。」というセリフは、これだけをとりだすと、職務基本規程に反することになってしまいます。
一方、佐田弁護士は「依頼人の利益を考える」といっています。このセリフだけみると、佐田弁護士のほうは、正しいことを発言しているようにみえます。けれども、この発言は、ドラマのなかでは、起訴された場合には、99.9パーセント有罪になってしまうのだから、依頼人がやっていないと言っているにもかかわらず、刑を軽くする努力をするのが依頼人の利益を考えることだという趣旨で述べられています。そう考えると、「依頼者の『正当な』利益」を考えているとは言えないので、やはり職務基本規定に反することになってしまいます。佐田弁護士は「依頼人の正当な利益を実現する」ように努めていないことになってしまします。
この場面で深山弁護士が本当に考えていたことは「事実を明らかにすることが、依頼者の利益になる。」ということだと思います。それなのに「依頼人の利益より事実を明らかにすることが大事」と言ってしまうと、深山弁護士は弁護士の基本姿勢がわかっているのか、という誤解、あるいは弁護士は依頼人の利益を考えなくてもいいんだ、という誤解を生じてしまします。
ドラマのセリフとして、インパクトのあるものにしたかったのかもしれません。深山弁護士は少し変わり者で、素直に正しいことが言えないという設定なのかも知れません。けれども、松本潤さんが演じるかっこいい深山弁護士には、正しい弁護士のあり方を示すセリフを言わせて欲しかったです。
弁護士は、依頼者の正当な利益を実現しなければなりません。主人公の深山弁護士には、このような弁護士の王道を歩みつつ、0.01%の壁を毎回突破する弁護を期待したいと思います。
佐田弁護士が「裁判官も、それ(検察官が慎重に起訴するから、起訴されたものは有罪であること)がわかっているから検察官調書を何より信頼する。」と言う場面がありました。これは、私たち弁護士が常々指摘していることです。
このような現在の刑事裁判の問題点も、更に深く、鋭く指摘して欲しいと思います。
松本潤さん演じる深山弁護士が活躍し、刑事弁護人に良い印象を持ってもらえるのであれば、弁護士としてもとても嬉しいです。そして、ドラマをみた若い人たちが、深山弁護士をみて、刑事弁護人になりたいと思ってくれるといいと思います。そんなドラマの展開を期待しています。