2015年8月10日、和歌山地方裁判所で、過労死をさせた福祉法人の責任を認め、約7000万円の損害賠償請求を認めた判決が出ました。
報道によると、一か月に116時間もの時間外労働があったとのこと。またこの件について労災が認められていたとのことです。
あらためて、長時間労働が、心や体の健康を破壊し、死の危険があることについて警鐘がなされることとなりました。
これも報道によりますが「男性が働き続けていた場合、時間外労働が継続した可能性が高いとして、月45時間分の時間外手当(月額約9万5000円)も逸失利益として賠償額を算定した。遺族側代理人の弁護士によると、こうした判断は異例という。」(2015年8月15日読売新聞ウェッブサイト)とのことです。
遺族側代理人の指摘するように、時間外労働が継続した可能性が高いとして逸失利益を上乗せしたというのは異例だと思います。
逸失利益とは、損害賠償のなかの一つの考え方で、亡くなった人が生きていたら得られたであろう賃金等の金額を算出して、これを損害として加害者に支払わせるという考え方です。
通常、裁判所は、
その当時の年収×(3割から5割の生活費の控除)×通常働ける67歳までの年数―年5%の利息(通常はライプニッツ係数を掛ける方法で計算)
で計算します。
判決を見ていませんが、おそらく判決は、その当時の年収ではなく、月45時間の時間外労働賃金(残業代)を年収に上乗せしたのでしょう。
当時の時間外労働賃金をもとに年収を計算すると、実際には、そんなに働いていたら67歳までも生きられないのではないか?という疑問が生じます。しかし、時間外労働賃金を年収に算入しなければ、死ぬほど長時間労働したのに、その労働したことが損害賠償に反映されないことになります。また、死ななければその後も長時間労働が続いた可能性があることも、損害に反映されないことになってしまします。
裁判所は、45時間は働いていたという考え方で、この矛盾を調整したようです。
※ 詳しくは、裁判を担当した岩城譲弁護士にブログに解説が載っています。
いずれにしても、長時間労働で従業員を死亡させた使用者に対しては、人の命を償うだけの高額な賠償義務があるということです。
長時間労働をさせても残業代を支払っていれば良いだろう、ということは通りません。まして、残業代を支払わなかったり、残業時間をごまかすような取扱をしていることは違法です。
長時間労働をさせていれば、そのような労働をさせられた労働者が過労死する、という取り返しのつかない重大な責任が生じるのです。
上記の事件では、使用者は過失を争ったようですが、長時間労働をさせていたことが明らかであれば、使用者側の責任は免れません。
「判決後に会見した男性の妻(53)は『夫に戻ってきて欲しいがそれはかなわない。時間がかかるが、過労死を周りの人に知ってもらうことでこの問題を無くしていきたい』と述べた。」(朝日新聞2015年8月11日ウェブサイト)
従業員を雇用する立場の人は、このような遺族の訴えと、損害賠償責任に重さを十分に理解し、長時間労働をさせない対策をたてて欲しいと思います。