法務省の法制審議会のなかで、「新時代の刑事司法制度特別部会」が、2014年7月9日、「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果」を発表しました。
この部会は、もともとは検察官の証拠改ざんなどの不祥事をきっかけにつくられたものです。
この中で、取調べの可視化(全面的な録画・録音制度)が求められてきました。とりまとめでは、不十分な範囲でしか認められず、批判的に報道されました。
この「結果」には、外にも、問題点は多々あるのですが、良い点もあります。
それは、被疑者国選弁護の拡充についてです。ここには、以下の記載があります。
被疑者国選弁護制度の対象となるべき場合を「死刑又は無期若しくは長期3
年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件について被疑者に対して勾留状が発
せられている場合」(刑事訴訟法第37条の2第1項)から「被疑者に対して勾
留状が発せられている場合」に拡大するものとする。
以前、国選弁護人は、起訴されないとつきませんでした。
2008年から、勾留された被疑者の一部について、国選弁護人がつけられることになりました。この時は,殺人、放火、強盗致傷など、法律で定めた刑が重い事件に限られていました。
2011年から、その範囲が拡大され、それなりの事件、たとえば、窃盗事件や傷害事件などでも、国選弁護人がつけられるようになりました。けれども、公務執行妨害、器物損壊、暴行など、法律で定められた刑が、比較的軽い事件については、国選弁護人はつけられませんでした。
この審議会の部会の結果が、審議会でも承認され、法律になると、勾留された被疑者は、全て国選弁護人がつけられるようになります。
公務執行妨害については、争いがあることもありますが、起訴されるまで国選弁護人はつけられませんでした。
法律で定められた刑が、比較的軽い事件は、認めている事件でも弁護人がつくことで、本人が早く釈放される可能性がある事案もあります。むしろ、弁護人がつくことで、結果が大きく変わる可能性がある事件が多く含まれています。早期に立法されることを期待したいです。
ただ、勾留というのは、逮捕されてしばらくして(72時間以内)、おこなわれるものです。逮捕直後については、国選弁護人を付する権利は未だありません。今後の課題となります。
もっとも、今回の部会の結果にもその手がかりとなる改正案が盛り込まれました。以下の記載です。
弁護人の選任に係る事項の教示の拡充
司法警察員,検察官,裁判官又は裁判所は,刑事訴訟法(第272条第1項
を除く。)の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たっては,
同法第78条第1項の規定による弁護人の選任の申出ができる旨を教示しなけ
ればならないものとする。
この規定が法律になると、警察が被疑者を逮捕するときには、被疑者に対し「弁護人を選任できる。」と教えるだけでなく、「弁護士会に弁護士を派遣するように連絡することができる」と教えなければならなくなります。愛知県弁護士会の場合には、無料で1回だけ弁護士を派遣する「当番弁護士」の制度があります。ですから、逮捕された人が「じゃあ、弁護士会に弁護士を呼んで欲しいと言ってください。」と警察に頼めば、弁護士を知らなくても、お金がなくても、無料で、弁護士会が弁護士を紹介し、弁護士が逮捕されている警察署に出向いてくれます。
現在も、もちろん「当番弁護士制度」はあります。弁護士会に連絡してくださいといえば、無料で弁護士を呼ぶことができます。けれども、警察は、法律上それを被疑者に教える義務まではないとされてきました。
今回の案は、警察が、逮捕された被疑者に、当番弁護士を教える義務が生じると理解することができます。
1990年、大分県弁護士会、福岡県弁護士会で始まった当番弁護士制度は、1992年には全国の弁護士会で行われるようになりました。弁護士会が、人権擁護の観点から行ってきた活動が、国選弁護人の制度として、徐々に拡充されてきたのです。
次は、逮捕段階からの制度作りを目指すことになります。
(参考 刑事訴訟法第78条)