地方公務員が過労死等(「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。過労死等防止対策推進法)となった場合には、
1 公務災害申請をすること
2 地方公共団体に補償を求めること
が考えられます。
⑴ 以前の制度
地方公務員に対する災害補償制度は、地方公務員法において地方公共団体の補償義務は定められていましたが、統一的な補償制度の定めがなく、各地方公共団体が独自の定めや労働基準法の定めにより補償を実施していました。
また、 現業の職員については労働者災害補償保険法が適用される一方、地方公共団体の長や議会の議員等については何ら定めがない
など、地方公共団体間あるいは同一の団体内の職員間で補償の認定や補償の水準について差異が生じていました。
⑵ 地方公務員の災害補償制度
地方公務員の災害補償について民間労働者及び国家公務員との均衡を図り、その制度を統一整備するため、地方公務員災害補償法が制定され、また、 全国的見地からの統一 的、 専門的運用を確保し、補償の迅速かつ公正な実施を行うために、災害補償の実施機関として、地方公務員災害補償基金が設置されました。
地方公務員災害補償基金は、地方公共団体の職員が公務災害又は通勤災害を受けた場合に、受けた災害に対する補償を迅速かつ公正に行い、あわせて職員の社会復帰の促進、職員及びその遺族の援護、公務上の災害の防止に関する活動に対する援助などの福祉事業を行うことにより、職員及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的としています。
地方公務員災害補償基金は、昭和42年12月1日に設置されました。その後、平成15年10月1日より、地方公務員災害補償法の改正に伴い、地方公共団体が主体となって業務運営を行う、いわゆる地方共同法人として新たにスタートしました。
(地方公務員災害補償基金ホームページの記載を参考にしました。)
過労死等防止対策白書(2017年版)によると、過去 10 年間における地方公務員の公務災害の受理件数は、脳・心臓疾患は 24 件か ら 61 件の間で、精神疾患等注)は 40 件から 75 件の間で推移しており、認定件数について、脳・ 心臓疾患は9件から 21 件の間で、精神疾患等は 15 件から 37 件の間で推移している(第 7-1 図~第 7-4 図)、とのことです。
⑴ 任命権者を通して基金へ請求する
被災職員又はその遺族等は、基金(支部長)に対し、その災害が公務災害・通勤災害であることの認定請求を行います。これと併せて傷病補償年金を除く補償の請求を行うこととされています。 (傷病補償年金の支給については、基金が職権で決定することとされています。)。
その請求は任命権者を通じて行うこととなっています。
⑵ 任命権者とは
「任命権者」とは、その組織の長のことをいいます。市町村なら市長です。ただ、学校の先生なら教育委員会委員長になるなど、法律などで誰がなるかが決まっています。
「地方公務員法第6条(任命権者)
1 地方公共団体の長、議会の議長、選挙管理委員会、代表監査委員、教育委員会、人事委員会及び公平委員会並びに警視総監、道府県警察本部長、市町村の消防長(特別区が連合して維持する消防の消防長を含む。)その他法令又は条例に基づく任命権者は、法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律並びにこれに基づく条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、それぞれ職員の任命、人事評価(任用、給与、分限その他の人事管理の基礎とするために、職員がその職務を遂行するに当たり発揮した能力及び挙げた業績を把握した上で行われる勤務成績の評価を言う。以下同じ。)、休職、免職及び懲戒等を行う権限を有するものとする。」
⑶ 実際の方法
実際に、直接市長に請求書を渡すのではなく、所属長を通じて任命権者に提出することになります。
市役所の場合、その所属している課の課長さん、学校の場合は学校長が直接の窓口になります。
民間の場合、職場を通じて労災請求をすることもあるかもしれませんが、地方公務員の場合、直接、基金に書類を持っていっても受け付けてもらえません。
これでは、特に過労死等の場合、そして特にパワハラや上司の直接の指示による公務災害請求がしにくいのではないかと躊躇してしまいそうです。
一方で、任命権者は、意見を付して基金に書類を送付します。職場が実態解明に協力的であれば、積極的な意見を付して基金に書類を送付してもらえるという利点もあります。
地方公務員災害補償基金のホームページには、標準処理期間の設定が公表されています。
http://www.chikousai.jp/reiki/pdf/h6ki55.pdf
これによれば精神障害による療養、休業、遺族補償についても8か月で支給、不支給の決定がなされるとされています。
しかし、実際には、このような事案については1年半程度要しているのが実情のようです。
その原因は、基金支部が、特定の事案については基金本部と協議をしているので、これに時間がかかるからです。
公務災害の認定決定がされると、あらためて補償請求を行い、各種の支給を受けることができます。
被災者が死亡したときに支給される内容は以下の通りです。
(1)遺族補償年金
ア 支給される人
配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹(ただし、妻以外の者にあっては18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるもの又は60歳以上のもの(一定の障害の状態にあるものを除く。))で、職員の死亡の当時、その収入によって生計を維持していたもの
イ 支給される金額
人数 | 遺族補償年金 | 遺族特別給付金 ※ | |
1人 | a b以外の方 | 平均給与額×153 |
遺族補償年金の額
× 20/100 |
b 55歳以上の妻又は一定の 障害の状態にある妻 |
平均給与額×175 | ||
2人 | 平均給与額×201 | ||
3人 | 平均給与額×223 | ||
4人以上 | 平均給与額×245 |
※ 遺族特別年金の支給額には上限があります。
平均給与の計算は次のようにします。
災害が発生した日の前3か月間に支給された給与の総額をその3か月間の総日数で除した額と、補償を受けることとなった日における給料、扶養手当、地域手当等の合計額を30で除した額のいずれか高い額が平均給与額となります。
例えば、月給が30万円の方は、(30万円×3か月)÷91日(92日)=9890円(9782円) 子どもさんが2人おられた家庭では、遺族補償年金が220万5470円受給できることになります。 (ただし、厚生年金との調整がありますので、実際の金額はことなります。)
また、遺族特別給付金は 220万5470円×20/100=44万1094円 支給されます。
合計で年間264万6564円の支給を受けることができます。 |
ウ 年金受給権者がその他支給を受けるもの
年金受給権者は、遺族特別支給金、遺族特別援護金が支給されます。
遺族特別支給金 300万円
遺族特別援護金 1860万円
合計 2160万円
の支給が受けられます。
また、葬祭を行った方または社会通念上葬祭を行うとみられる方に、葬祭補償として次のいずれか高い額が支給されます。
a 31万5000円+平均給与額×30
b 平均給与額×60
例えば、月給が30万円の方は、(30万円×3か月)÷91日(92日)=9890円(9782円) 9890円×30+31万5000円=61万1700円>9890円×60=59万3400円 よって、61万1700円が支給されます。 |
(2) 遺族補償一時金
ア 受給できる人
A (1)に掲げる要件に該当しない配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹等
B 遺族補償年金の受給権者の受給権が消滅し、他に同年金を受けることができる者がいないときは、Aの場合に支給される一時金の額をまず算定し、その額から、既に支給した年金及び前払一時金の額の合計額を控除して残額があれば、これを一時金としてAの者に支給
イ 受給できる金額
区分 | 遺族補償一時金 | 遺族特別給付金 | |
a |
ア 配偶者(55歳未満の夫、職員の死亡の当時その収入により生計を維持していなかった配偶者) イ 職員の死亡の当時その収入により生計を維持していた子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹(職員に扶養されていた19歳以上の子、55歳未満の父母など) エ イに該当しない子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹(職員に扶養されていなかった子、父母など) |
平均給与額×1000 |
遺族補償一時金の額
×20/100 |
b |
ウ ア、イ以外の方で、主として職員の収入により生計を維持していた方(職員に扶養されていた配偶者の父母、おじ・おばなど)のうち、三親等内の親族で、職員の死亡の当時18歳未満もしくは55歳以上又は一定の障害の状態にある方 |
平均給与額×700 | |
c | その他の方 | 平均給与額×400 |
※ 遺族特別年金の支給額には上限があります。
例えば、月給が30万円の方は、(30万円×3か月)÷91日(92日)=9890円(9782円)
遺族補償一時金989万0000円
遺族特別給付金197万8000円
合計 1186万8000円
を受給することができます。
|
ウ その他の給付
遺族特別支給金 | 遺族特別援護金 | 合計 | |
aに該当する方 | 300万円 | 1860万円 | 2160万円 |
bに該当する方 | 210万円 | 1302万円 | 1512万円 |
cに該当する方 | 120万円 | 744万円 | 864万円 |
また、葬祭を行った方または社会通念上葬祭を行うとみられる方に、葬祭補償として次のいずれか高
い額が支給されます。
a 31万5000円+平均給与額×30
b 平均給与額×60
例えば、月給が30万円の方は、(30万円×3か月)÷91日(92日)=9890円(9782円) 9890円×30+31万5000円=61万1700円>9890円×60=59万3400円 よって、61万1700円が支給されます。 |
いかがでしょうか。公務災害認定を受けると、ご遺族にはこれからの生活のために大きな補償を受けることができます。 |
公務災害不認定の決定を受けた場合には、地方公務員災害補償基金の支部審査会に審査請求を行うことができます。審査請求は支部長の決定があったことを知った日の翌日から3か月以内にしなければなりません。
支部審査会の裁決について不満がある場合には、審査会に対する再審査請求ができます。また裁判所に対し取消しの訴えを提起することができます。
支部審査会に審査請求した場合に、審査請求をした日の翌日から起算して3か月を経過しても支部審査会による裁決がないときは、審査会への再審査請求又は裁判所への取消請求をすることができます。
公務災害によっても補償されない損害を請求できることは、民間の場合と同様です。
適用される法律は国家賠償法となりますが、過失、因果関係、損害額の計算等の考え方は変わりません。
相手が地方自治体ですから、解決することは容易ではありません。訴訟を提起することが必要な場合もあります。